【四字熟語の処世術】五里霧中(ごりむちゅう)

 Date:2016年06月13日09時25分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任


 この季節、我が街は中国から飛来する黄砂やpm2.5(微小粒子状物質)に悩まされる。先日も対岸の島から福岡ドームやタワーなど福岡市の湾岸ベイサイドの景色を楽しもうと家を出たが、靄がかかったような感じで、五里霧中とまではなかったが、ぼんやりとしか見ることができなかった。

 黄砂にしてもpm2.5にしても隣国中国の高度経済成長がもたらした負の産物だ。森林の過伐採や過放牧、過剰耕作が砂漠化を進め、結果黄砂が宙を舞い偏西風にのって他国にまで害をまき散らしている。工業化の進展を急ぐあまり工場が出す有害物質の規制は後回しの状態で、中国国内では文字通り街が五里霧中になるほどpm2.5に犯されている。車の交通が半分に規制されたり、土木工事や工場の操業停止が行われたり、小中学校が臨時休校になるなどの社会問題も引き起こしている。有害物質がもたらす人体への健康被害の深刻化は中国国内に止まらず、韓国や日本にも多大な影響を与えている。

 五里霧中…「五里霧」とは、五里四方に立ち込める深い霧。転じてどうすべきかの方針や見込みがまったく立たないこと、また手探りで何かをすることの喩えとして使われる四字熟語だ。前回書いた暗中模索と同義である。

 先日開催された伊勢志摩サミットには先進7カ国の首脳が一同に介し世界が抱える課題について討議した。不透明さを増すとした世界経済について議長国日本の安倍首相が「世界経済はリーマンショック前の状況に似ている」と危機を煽ったが、各国首脳全員が同意することはなかったとようだ。安倍首相にとっては国内における消費税引き上げ時期の延期を持ち出すタイミングとして各国首脳の同意を得たい考えだったのだろうが、欧州の首脳にとっては五里霧中の難民問題こそが悩ましい問題で、世界経済をそこまで深刻な問題とはしていなかったのだろう。

 今回のサミットでも気候変動やエネルギー、環境について議論されたようだが、マスコミを通じて流れるニュースを見ても、社会全体でこの問題への熱が一時期に比べ冷めているように感じる。中国に対しては海洋進出問題もさることながら、人体へ直接的な影響を与える大気汚染問題についてもっと真剣に考えるべきではないのだろうか。地球温暖化などのグローバルな環境問題は先進国に限らず、途上国にもその原因が求められるだけに、G7やG20だけでなく、さらに多くの国々を巻き込んで議論を深め対策を協議する課題であるはずだ。

 地球温暖化対策は各国の思惑が入り乱れまさに五里霧中の問題となっているが、その課題から我々は決して目を背けることはできない。