【四字熟語の処世術】一石二鳥(いっせきにちょう)

 Date:2016年04月28日11時33分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任


 先日、近くに住むオーストラリア出身の友人と話していたときのことだ。何の話題だったか忘れたが、「二鳥一石」という言葉を彼が口にした。一瞬、耳に違和感を覚えた私は「二鳥一石?」と聞き返し、いやいやそれは「二石一鳥」だろうと咄嗟にたしなめた。が、口を吐いた音にこれまた違和感を覚え、頭の中は正しい音を求めて激しく脳波が走り回っていた。何とも気持ちはすっきりしなかったが、話を続けようとする私に彼は「二つの石で一つの鳥しか捕れないというのはおかしくない?」と笑いながら、しかし正確に間違いを指摘した。

 彼は日本文化に大変な興味を持っていて、大学で英語を教える傍ら、師範として茶道を教えている。アメリカで千利休に関する著書も出版しているほどだ。

 日頃、四字熟語の意味をこのコラムで書いていながら、外国人に熟語の持つ意味を解説され過ちを指摘されるとは…。その後も、彼とのやりとりを思い出すたびに笑いが止まらなかったが、熟語は音で覚えてるのだろうか、とっさの違和感とは実に的確で、彼の口を出た「二鳥一石」がおかしいと咄嗟に判断したものの、頭の中が混乱して何がどう間違っているのかわからなくなっていたようだ。

 先日、ヤフーニュースで歌手の矢口真里さんが登場する日清食品カップヌードルのCMが放送中止になったことが話題となっていた。何でも過去に不倫騒動を起こした彼女が口にする「二兎を追う者は一兎をも得ず」というフレーズが、不倫を擁護しているかのように聞こえるとのクレームが多く寄せられたからだそうだ。実際の映像を見てはいないので何も言うことは無いのだが、最近はネットの声が世論の動向のようなとらえ方をされがちなのが気になるところだ。

 それはともかく、「二兎を追う者は一兎をも得ず」は意味的には「一石二鳥」の反対の格言だ。一つの行為で二つの利益を得る「一石二鳥」に対し、こちらは欲張って二つの利益を同時に得ようとすれば、一つの利益すら得られないという意味である。

 一石二鳥…よく聞く言葉であり、よく使う言葉でもあるが、一石で二鳥が捕れるなど現実の社会はそう甘くはない。「二兎を追う者は一兎をも得ず」のほうがずっと現実身のある格言だ。一つ一つ、一歩一歩、堅実に、着実に歩くことが大切なことは誰もが知っている。それでも一石二鳥を狙い、二兎を追いかけてしまうのが人間の性でもある。そんな自分を戒める上でも「一石二鳥」ではなく、「二兎を追う者は一兎をも得ず」の格言を胸にしまっておきたいと思う。