【四字熟語の処世術】歳寒松柏(さいかんしょうはく)

 Date:2016年01月27日15時39分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任


 暖冬かと思いきや厳しい寒さがやってきた。北日本はもちろんだが、西日本でも数十年ぶりの寒波とかで、気温はマイナス、雪も降り、ところによっては30センチ以上の積雪となった。こんな日の朝は布団から出るのも億劫になる。できれば布団に丸まっていたい。人の心とは弱いものだとつくづく思う。

 歳寒松柏(さいかんしょうはく)という四字熟語がある。論語子罕第九にある言葉で、「子曰く、歳(とし)寒(さむ)くして、然(しか)る後に松柏の凋(しぼ)むに後(おく)るるを知る」が原典だ。松や柏などの常緑針葉樹は、春や夏の季節には他の樹木も同様に緑の葉を茂らせているのでわからないが、秋冬になり、他の樹木が葉の色を変え、落ちて根に帰っていく時でさえ、緑の葉を茂らせている。人もまた、どんな困難にあっても節を保ち、志を変えない立派な人となるべきを孔子が弟子に諭された言葉だ。

 一方で、平生ではわからない本来の姿が、困難な時にこそ現れることを言い表した言葉でもある。老子にも「大道廃(すた)れて仁義あり」とある。天下に道が失われた時にこそ、真に仁義の人が現れるという意で、同じような意味で語られたのだろう。

 昔、結婚式で親戚のおじさんが挨拶に立つと決まって口にしていた言葉がある。「人生は山あり谷あり…」と続く名調子だ。夫婦二人して歩く道は決して平坦な道ばかりではない。時に山のような壁があり、時に谷のような落とし穴もある。その困難を二人力を合わせて乗り越えて欲しいとの願いがそこにある。

 確かに、人生を夫婦二人して歩いてみれば、実にその通りで、無事平穏な日々などそうあるものではない。あったとしても長続きはしない。事の大小は別として、人はいつも何がしかの問題や不安を抱えながら毎日を送っている。そしてその壁が大きければ大きいほど、その壁の前で人は隠す事のできない本来の姿を露わにしてしまう。日頃はどっしりと構えているように見える人でさえ途端に周章狼狽するものだ。

 自分を振り返っても、困難があると必ずと言っていいほど正面からその問題に取り組まず、いつも抜け道を探し、越えられない理由を探し、言い訳ばかりを繰り返しているような気がする。変節することしきり、自分に克てず初志貫徹できない自分しか見えてこない。

 しかし、そんな自分もまた自分なのである。その自分を受け入れることも大切なことなのかもしれない。人生という道の途上にある険しい山谷も一歩一歩前に進むことでしか越えることはできない。厳しい寒さにも色を変えない松や柏のように、克己して前を向き、志を曲げず、諦めず、最後まで歩き続けることのできる人でありたいと思う。