【四字熟語の処世術】落葉帰根

 Date:2015年12月16日17時48分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任


 春に芽を出し夏に青々と成長した葉も秋には色づき冬には落ちて根に帰っていく。我が庭から眺める景色にさえ四季の移り変わりを感じる。

 この歳になると一年が過ぎるスピードの速さに驚かされる。記憶は年々曖昧になるのだが、あっという間に過ぎ去っていく感覚だけは鮮明だ。小高い山でも登りはきつくなかなか登頂できないが、下りはあっという間だ。人生も下りにさしかかるとあっという間に時間が流れ去るということなのだろうか。

 落葉帰根…どんなに背の高い樹の葉でも、いずれは地に落ち、根に帰る。同じように人も最後には故郷へ帰るものである、と辞書にある。

 生まれ育った土地を離れ、夢を追って遠くの地で頑張る人は多いが、それでも望郷の念は捨てがたいのだろう。余生は故郷に帰ってと思う人の話はよく耳にする。

 歌手の中島みゆきさんは「樹高千丈 落葉帰根」(じゅこうせんじょう らくようきこん)の歌詞の中で、「樹高は千丈、遠ざかることだけ憧れた。落ち葉は遥か人知れず消えてゆくかしら。いいえどこでもない。枝よりもっとはるかまで木の根はゆりかごを差し伸べてきっと抱きとめる」と最後には根をはる大地が落ち来る葉を優しく受け止めてくれると歌う。

 根に帰る落葉。しかし、その葉もいずれ腐葉土と化し木を成長させる養分となる。終わりのない大自然が生み出すスケールの大きな円運動。人もまた、故郷に帰りその地の役に立つことができれば、自然の法則に叶うというもの。小さな循環かもしれないが、人もまた、生涯人の為に生きるという役目が与えられているのかもしれない。

 話はそれるが、我が家の宗教は仏教だ。仏教に限ったことではないだろうが、信仰の世界では、多くがこの世界を仮の世とし、本当の世界は別にあると信じている。人生を終えた霊魂は「あの世」へと帰っていくという考えだ。そしてまた、その魂は次の生へと繋がっていく。仏教やヒンズー教が説く輪廻の思想は、見えない世界まで含めた大循環のシステムなのだ。

 根に帰っていく落ち葉を眺めながら、目に見える世界、目に見えない世界も含め、大宇宙が織りなす法則の中で、やがて来る人生の落葉の時を思わないではない。一粒の小さな存在でしかない自分だが、確かに今を生きるものとして、いかなるステージに身を置こうとも、常に成長し続ける自分でありたいと思う。